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~中央福祉専門学校 校長 長岩嘉文先生より 応援のことば~​     

オープンダイアローグとソーシャルアクション

 厚生労働省は、今年(2021年)4月に、いわゆるヤングケアラーについての初の全国調査結果を発表した。この調査では、中学生・高校生のうち、20人に1人(約5%)程度が家庭内で大人の代わりに家事や介護といった家族の世話を担っている実態が明らかになった。この数字は、長く社会福祉教育に携わる私にとっても衝撃的であり、自らの現状認識の甘さを深く反省する材料となった。

 調査は、祖父母や両親のケアを担っている子どもたちのみならず、障害等のある兄弟姉妹(きょうだい)のケアを担っている子どもたちにも焦点を当てている。「きょうだい会@Nagoya」のメンバーや支援者からみれば「何を今さら……」という感覚もあろうが、大いに意義のある調査であり、かつ調査結果を知った国民が、当事者の苦労を想像し、共感するだけで終わってはいけない内容を含んでいる。

 調査結果をみると、「きょうだい」の世話をしている子どもの約60%が、その頻度が「毎日」であると答え、世話に費やす1日の時間が平均4時間程度だと答えている。この実態は、「自分の時間が取れない」「宿題や勉強する時間が取れない」「友人と遊ぶことができない」という回答につながっていく。そして、相談相手のほとんどは「家族」「友人」であり、「学校の先生」「スクールソーシャルワーカー」「行政機関」等をあげる子どもは僅少である。子ども自身の意識も「誰かに相談するほどの悩みではない」「相談しても状況が変わるとは思えない」「家族に対して偏見を持たれたくない」等となっており、支援者や支援機関が知られておらず、当てにもされていない実態が垣間見える。学校や大人に助けて欲しいことについては、約40%が「特にない」と答えている。身近な支援機関でもあるべき学校では、そもそもヤングケアラーという概念について、「言葉を知らない」「聞いたことがあるが具体的には知らない」「知っているが学校としては特別な対応をしていない」が80%を超えており、甚だお粗末な状況となっている。この実態は、今日の教育(教員)と福祉(支援者)の敗北を物語っている。

 国は、都道府県や政令指定都市に、まずは実態調査を行うように促しているが、NHKの取材(本年7月)によると、約7割が「調査の予定がない」と回答している。これもまたお粗末な話である。中学、高校という多くの可能性を秘めた時期にある子どもたちにとって、温かい関心を寄せる大人や、親身になって寄り添う相談・支援機関が少ない(これまでもなかった)という事実を、まずは皆がしっかり認識しなければならない。

 このような背景のなかで、2019年に始まった「きょうだい会@Nagoya」の活動は、まずは自分たちの体験を語り合う、セルフヘルプグループとしての歩を着実に進めているものと思う。語り合いや対話の意味や効果は、近年、オープンダイアローグとしての理論化も進んでいることから、そうした成果も取り入れつつ、引き続き地道な活動をして欲しいと思う。そして、いずれは活動の蓄積の中から、潜在するヤングケアラー問題への対応策に率直な意見や提案を寄せて欲しいと思う。ソーシャルアクション等というと敷居が高く感じられるかもしれないが、こうした問題に必要なのは、学者や評論家の知見ではなく、当事者の「生の声」であると確信している。​

日本福祉大学中央福祉専門学校 

       校長 長岩嘉文

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